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“ゲイのラヴ・ソング”としてのカルチャー・クラブ

レヴュー公開:2003年11月13日

 もうかなり前の話になるが、とあるバーのカウンターで偶々隣り合わせたお客さんと、互いの好きな音楽について語り合ったことがあった。そして藤嶋が、好きなミュージシャンとしてボーイ・ジョージの名前を挙げたところ、

「えっ!? 君、女装の男が好きなの?」

 と気持ち悪そうな顔をされたことがあります。実話です。

 好きなミュージシャンと好きな男のタイプを一緒くたにしている時点でアタマが悪いんだけど、女装のことをさも気持ち悪そうに言うところが、藤嶋は嫌だった。

 どういうわけか、ボーイ・ジョージのことを「キモい」とか言って低く見るゲイの人は、存外に多い。

 女装差別反対! と書くと何だかジョークっぽく思われそうだけど、たとえば「ゲイ・パレードで女装のゲイが歩くのは、ゲイに対する偏見を助長させるから良くない」とかいう莫迦なことを平気で言い散らす人が、残念ながらゲイの人たちの中にもいるんだよね。そういう人たちに対しては、偏見を持ってるのは他ならぬアンタら自身でしょうが! と言いたい。

 女装と一口に言っても、単なる趣味の場合もあれば、トランス・ジェンダーの場合もあるし、パフォーマンスの場合もあるし、決して一括りにして語ることはできないんだけれど、少なくとも女装を通して自己のアイデンティティを確立している人たちがいるのは紛れもない事実で、そうした人たちに「キモいからやめろ」という言葉を投げつけるのは、その人たちの人格そのものを否定しているのと同じことだ。

 カルチャー・クラブの人気が全盛だったころ、バンドのヴォーカルであったボーイ・ジョージが女装をしている理由を、世間の人たちの大半は、彼が目立ちたがっているから、と考えていた。世間の人たちだけではない。英米で活躍しているセクシャル・マイノリティーのミュージシャンたちについて書かれた『ビニール・クロゼット』(ボーゼ・ハドリー:著、水口剛:訳、1992年、JICC出版局)という本の中で、ジョージと同じセクシャル・マイノリティーであるDという匿名のレズビアン・シンガーが、著者の「音楽界のゲイはボーイ・ジョージのおかげで助けられたと思いますか。」という質問に対して、「はっきり言ってノーだわ。彼は女装しなかった方がずっとよかったかもしれない。才能はあるんだから、あの売り込み方はまったくいただけないわ。」と答えている(本文213頁)。つまり、このDというビアン・シンガーは、ボーイ・ジョージの女装を売り込みの手段と捉えていて、女装のシンガーが姿なきゲイの声を代表するかのように表舞台に上るのは、ゲイに対する誤解を助長する、と考えていたわけだ。

 まあ確かに、彼がメーキャップを始めたのは、クラブで目立つため、という理由からではあった。しかし、カルチャー・クラブを結成してからの彼の女装は、目立つためというよりも、恋人を自分のもとに繋ぎ止めておくためのものだった。

 恋人だった男の名前は、ジョン・モス。カルチャー・クラブのドラマーである。そして、ジョン・モスはストレートだった(と自分では言っているんだけど、たぶん彼はクロゼットのゲイなんじゃないかな、本当は)。

 ストレートの男を愛し、あまつさえその恋人となったボーイ・ジョージは、彼に愛され続けるために、どんどん女らしく振舞うようになっていった、と1997年にVH−1(音楽チャンネル)のドキュメンタリー番組『BEHIND THE MUSIC』のインタヴューの中で語った。

 彼のメーキャップは、カルチャー・クラブ全盛のころも今も、派手だ派手だと言われ続けているけれど、彼のデビュー前とデビュー後のメークを比較してみると、実はデビュー後のメークがいかにフェミニンで尋常なレヴェルのものであったかがお分かりいただけると思う。デビュー前のジョージのメークは、女装というよりも、彼が憧れていたデヴィッド・ボウイやマーク・ボランを真似たものだ。

デビュー前のボーイ・ジョージ
デビュー前

デビュー後のボーイ・ジョージ
デビュー後

 男から愛されるために女性らしく振舞うという、その努力の自己抑圧的な方向性が正しいものだったのかどうか、誰にも断じることはできない。だが少なくとも当時のボーイ・ジョージは、ショー・ビジネスというクレイジーな世界の中で正気を保ちながら生きていくために、ジョン・モスの愛を必要としていた。そのために懸命な努力を払った彼のことを、「キモい」だの「キショい」だの「偏見を助長する」だのと言って非難することができるゲイの人というのは、結局のところ、その人自身が心のどこかでホモフォビアの感情を抱いているか、さもなければ、誰かを本気で好きになったことのない人だと思う。

 ボーイ・ジョージとジョン・モスの関係は、しかしカルチャー・クラブがヴァージン・レコードから正式にデビューして以降、険悪なものとなっていく。ボーイ・ジョージに対するジョンの態度は冷淡なものに変わり、2人はしばしば喧嘩をするようになり、時には暴力沙汰にまでなった。ジョージは、ジョンの態度の変化を、ジョンが有名になるために自分を利用した、と解釈した。それでもジョンを愛していたジョージは、ストレートである彼に愛してもらえるように、ますます女性化していく一方で、ジョンへの愛と恨みを歌に込め、ジョンのために歌い続けた。

 カルチャー・クラブのラヴ・ソングの歌詞の大半は、実はジョンとの恋愛関係を歌ったものである、ということを、ボーイ・ジョージは1997年、『BEHIND THE MUSIC』の中で語った。(これって完全にアウティングなんだけどね:笑)

 カルチャー・クラブの曲の歌詞は、一般には難解だと思われてきた。カルチャー・クラブに限らず、イギリスのミュージシャンの書く歌詞は、レトリックが一ひねりも二ひねりも凝っていて、アメリカのミュージシャンのそれに比べ、解釈が難しい(他言語に翻訳されている場合には尚更)。バンドのギタリストのロイ・ヘイでさえ、後年のインタヴューの中で、ジョージの書く歌詞が何を歌ったものであるかを、実はよくわかっていなかった、という告白をしている。しかし、カルチャー・クラブのラヴ・ソングが、ジョージからジョンに向けて歌われたものだと解釈すると、にわかに歌詞の内容がクリアに見えてくる。カルチャー・クラブのCDが手元にある人は、ぜひ歌詞カードを読み返してみてほしい。

 たとえば、彼らの最初のビッグ・ヒットである「君は完璧さ」(全英最高1位/全米最高2位)は、その原題からして、そのものズバリである。

「DO YOU REALLY WANT TO HURT ME」――君は僕を傷つけたいの?

KISSING TO BE CLEVER

CULTURE CLUB/KISSING TO BE CLEVER

1. WHITE BOY (dance mix)
2. YOU KNOW I'M NOT CRAZY
3. I'LL TUMBLE 4 YA
4. TAKE CONTROL
5. LOVE TWIST (featuring Captain Crucial)
6. MYSTERY BOY
7. BOY,BOY(I'm the boy)
8. I'M AFRAID OF ME (remix)
9. WHITE BOYS CAN'T CONTROL IT
10. DO YOU REALLY WANT TO HURT ME

※曲目は日本盤のものです。



 そして、彼らの最大のヒット・シングル「KARMA CHAMELEON」(全英最高1位/全米最高1位)も、バンドのメンバー同士、しかも男同士で恋人関係になったことから生じた歪みについて歌われた曲であることがわかる。

COLOUR BY NUMBERS

CULTURE CLUB/COLOUR BY NUMBERS

1. KARMA CHAMELEON
2. IT'S A MIRACLE
3. BLACK MONEY
4. CHANGING EVERY DAY
5. THAT'S THE WAY (I'm only trying to help you)
6. TIME (Clock of the heart)
7. CHURCH OF THE POISON MIND
8. MISS ME BLIND
9. MISTER MAN
10. STORMKEEPER
11. VICTIMS

※曲目は日本盤のものです。

「KARMA CHAMELEON」の邦題「カーマは気まぐれ」は、「KARMA」という言葉があたかも人名であるかのような誤解を与えるが、「KARMA」とはカルマ=前世の業のこと。「KARMA CHAMELEON」とはつまり、「宿業的にコロコロと態度を変化させる人」の意で、ここではジョンのことを指している。

 この曲の大サビでは、次のように歌われている。

毎日が生存競争みたいだ
君は僕の恋人で、ライヴァルじゃないのに

 この箇所には、ジョンがジョージを恋人としてではなく、ビジネス上の相手として扱うことの不満と寂しさが込められている。

 そうしたジョンへの不信感は、アメリカでは「KARMA CHAMELEON」に続くシングルとしてリリースされた「MISS ME BLIND」(全米最高5位)に、より強く現れている。

 この曲のサビでは「僕を失うと、君はお先真っ暗になるよ」という脅し文句が繰り返されるのだが、これは、ショー・ビジネスの世界で成功するためにジョージを利用した(とジョージは思っている)ジョンに対して、ジョージが逆に居直って、関係の修復を強制的に迫っているわけである。だが、ジョージがそうやって自分の優位を主張すればするほど、彼がジョンを失うことをどれほど恐れていたかが、この曲の歌詞からは物悲しく浮かび上がってくる。結局、ジョージがジョンから愛されようとして女性化すればするほど、カルチャー・クラブへの世間の注目は高まり、ジョンとジョージの関係は、かえって益々ビジネス・ライクなものになっていく――その悪循環にジョージは苛まれている。「MISS ME BLIND」とは、そういう曲である。

 1コーラス目のCメロでは、次のように歌われている。

今さら要求する必要なんてないよ
僕の黄金の手をもぎ取っていけばいい
入用のときの君がどれほど貪欲に見えているのかは
教えてあげても君には絶対に自覚がないだろうね
そんな君が裕福なのか貧しいのか、考えてみるんだ

 また、大サビでは、

だってこの愛は
僕が捧げなければいけなかった愛は
同じようなものよりはるかに上等だったはずだよ
君を裕福にもできるし
貧しくもできるけど
僕を失ったら君はお先真っ暗になるんだよ

 彼らのセカンド・アルバム『COLOUR BY NUMBERS』からは、この「MISS ME BLIND」や「KARMA CHAMELEON」の他にも、「CHURCH OF THE POISON MIND」(全英最高2位/全米最高10位)、「VICTIMS」(全英最高3位)、「IT'S A MIRACLE」(全英最高4位/全米最高14位)など、数々のヒット・シングルが生まれた。ボーイ・ジョージとカルチャー・クラブの人気は頂点に達し、『COLOUR BY NUMBERS』は全英のアルバム・チャートで見事 No.1を記録、全米のアルバム・チャートでも2位まで上昇する大ヒット作となった。ロック/ポップス史に名を残す名盤である。

 そして1984年の2月、第26回グラミー賞で、彼らはベスト・ニュー・アーティストに選出された。



 続いて同年の10月にリリースされたサード・アルバム、『WAKING UP WITH THE HOUSE ON FIRE』では、社会的メッセージが強く前面に押し出された。アルバムからのファースト・シングルである「THE WAR SONG」(全英最高2位/全米最高17位)は、“War, war is stupid.”“No more war.”と実に明解な反戦メッセージが歌われているが、アルバム全体を見ると、アイドル・バンドのレッテルを払拭しようとしたためか、難解な歌詞の曲が多い。

WAKING UP WITH THE HOUSE ON FIRE

CULTURE CLUB/WAKING UP WITH THE HOUSE ON FIRE

1. DANGEROUS MAN
2. THE WAR SONG
3. UNFORTUNATE THING
4. CRIME TIME
5. MISTAKE NO.3
6. THE DIVE
7. THE MEDAL SONG
8. DON'T TALK ABOUT IT
9. MANNEQUIN
10. HELLO GOOD BYE

 このサード・アルバム中、もっとも強く当時のジョージのプライヴェートを反映していると思われる曲が、日本ではノエビア化粧品のテレビCM曲にも使われた、「DON'T TALK ABOUT IT」(英米では未シングル化)である。

人々を見渡しながら
僕は心細さに怯えていた
振り向いて君が微笑んでいるのを見たとき
僕の心臓は縮み上がった
何千もの人々に取り囲まれた中で欲望を覚えるなんて
自滅に自滅を重ねる行為だ

恋人がそこにいると思っていても
僕はそれを口にしたくはない
連中が噂をする一方で
僕らは苦悩を分け合っているんだ

 この曲は、マイケル・ジャクソンの代表曲「BILLIE JEAN」と同じく、プライヴァシーを嗅ぎ回されるポップ・スターの内面の苦悩を歌った作品であるが、ボーイ・ジョージの場合は、もう少し複雑である。何千人ものファンに取り囲まれる狂乱の中で、彼は正気を保つための拠り所を、ジョンの愛に求めていた。だが、彼は自分の恋人がジョンであることを、誰にもオープンにはできなかった(さすがにバンドの他のメンバーは2人の関係を知っていたみたいだが)。この時期、ボーイ・ジョージは自身のセクシャリティを明言することは避けており、「君はバイセクシャルなの?」という質問には、「金を払ってセックスする(=BUY SEX)なんて僕はしないよ」と駄洒落ではぐらかしていた。もしもジョージとジョンが恋人同士であることが暴露されたとしたら、それは単なる恋愛スキャンダルでは済まされず、ジョージがゲイであるという事実も、同時に明るみに出ることになる。「自滅に自滅を重ねる行為(原詞では“Another suicide”)」とは、そういうことである。

『WAKING UP WITH THE HOUSE ON FIRE』は、全英のヒット・チャートでは最高2位を記録するものの、全米では最高26位、と前作の数字を大きく下回り、彼らの人気は急降下していくことになる。



 '86年4月、前作のセールス不振が招いた失速から回復を図るべく、カルチャー・クラブは4th アルバム『FROM LUXURY TO HEARTACHE』をリリースした(全英最高10位/全米最高32位)。ファースト・アルバム以降、彼らのサウンドはシンセサイザーの使用を抑える傾向を強めていたのだが、プロデューサーを1st 以降のスティーヴ・レヴィンからアリフ・マーディンへと思い切って切り替えたことにより、従来のカルチャー・クラブのテイストに、さらにファンクの骨太なエッセンスが新しく加えられた。また、彼らの代表曲である「KARMA CHAMELEON」の共作者であるフィル・ピケットが、今作では全10曲のうち実に9曲までをメンバーと共作しており、メロディーの明解さ、親しみやすさが強化されている。歌詞の内容も、メッセージ色の濃い曲が中心だった前作とは打って変わって、わかりやすいラヴ・ソングがアルバムの中心となっている。今日ではあまり省みられることのない作品だが、実は隠れた傑作。

FROM LUXURY TO HEARTACHE

CULTURE CLUB/FROM LUXURY TO HEARTACHE

1. MOVE AWAY
2. I PRAY
3. WORK ON ME BABY
4. GUSTO BLUSTO
5. HEAVEN'S CHILDREN
6. GOD THANK YOU WOMAN
7. REASONS
8. TOO BAD
9. COME CLEAN
10. SEXUALITY
11. MOVE AWAY (extended)
12. GOD THANK YOU WOMAN (extended)

※曲目は日本盤のものです。

『FROM LUXURY TO HEARTACHE』に収録されているラヴ・ソングの大半は、曲中で“woman”という呼びかけが多用されていることからも明らかなように、女性に向けて歌われたものとなっている。異性愛のラヴ・ソングを歌うことで、ジョージがゲイであるというスキャンダラスな噂を一掃することを企図していたのかもしれない。実際、このアルバムからのセカンド・シングルは、タイトルからして既に“woman”という呼びかけが含まれている「GOD THANK YOU WOMAN」(全英最高32位)であった。

 だが、ジョージが自身のゲイというセクシャリティを完全に否定したのかといえば、実はそうではない。このアルバムのエンディングを飾るナンバー、「SEXUALITY」のコーラス部分では、次のフレーズが繰り返される。

僕はセクシャリティで遊んでいるのさ

 この曲で用いられている“sexuality”という言葉は、決して一義的なものではなく、「性的傾向」「性的関心」「性欲」など、様々なニュアンスを包含している。そして、アルバム中の他の曲では、“woman”という女性への呼びかけが多用されていたのに対し、この「SEXUALITY」では、“pretty baby”“pretty people”など、呼びかけられる対象の性別が明示されていない。つまり、ボーイ・ジョージは、このアルバムのラストに「SEXUALITY」という曲を配置することによって、『FROM LUXURY TO HEARTACHE』の中で歌われていた異性愛が、実はすべてまやかしであるかもしれないと、最後の最後で仄めかしているのである。このアルバムのボーイ・ジョージは、まさにセクシャリティで遊んでいる。

「SEXUALITY」で歌われているのは、おそらくはクラブ・パーティーでのクルージングの情景である。「SEXUALITY」のBメロの歌詞は、以下の通りだ。

僕が「踊らないよ」と言ったら
それは「君は好みじゃない」ってことさ

僕が「踊らないよ」と言ったら
それは「新しいヤツを探しなよ」ってことさ

『FROM LUXURY TO HEARTACHE』がリリースされた時点で、ジョージとジョンの関係は、既に修復不可能なものになってしまっていた。そして、「GOD THANK YOU WOMAN」のシングル・カット後、ボーイ・ジョージのヘロイン常用疑惑がマスコミを賑わせ、程なくして彼は逮捕された。

 ボーイ・ジョージがヘロインに溺れるようになったのは、カルチャー・クラブの人気が下降線を辿っていたことが原因ではなく、ジョンとの関係に絶望し、それでもなおジョンと音楽活動を続けなければならないという、辛い現実から目を逸らすためのものだった。短期間で急激にヘロインを常用したせいで、逮捕の直前のころには、もう少しで命を落としかねないところまで中毒が進んでいた。そして、中毒から完全に回復するためには、以降、数年間という時間が費やされた。

 そして、カルチャー・クラブは活動を休止し、ジョージは事件の裁判の中で、自分がゲイであることを公にした。



 カルチャー・クラブの活動休止を受け、ボーイ・ジョージはソロ・アーティストとして活動を再開。ゲイであることをカミング・アウトしたジョージは、ゲイ・シンガーとしての立場を尖鋭化していった。

 まず、'87年の復帰第1弾シングル「EVERYTHING I OWN」が全英 No.1を記録したのを受けて、ファースト・ソロ・アルバム『SOLD』がリリースされた(全英最高29位/全米最高145位)。そのエンディングを飾っていたバラード・ナンバーのタイトルは、「TO BE REBORN」――「生まれ変わるために」、というものだった。

生きることもできれば
死ぬこともできる
君の腕の中で生まれ変わることだってできる
笑うこともできれば
泣くこともできる
ほっと息を吐くこともできる
もしも君がそこにいて
僕を温めてくれさえすれば

 静かに、しかし力強く希望への一歩を踏み出す瞬間を歌い上げたかのような、この壮大で美しいバラードは、アルバムからの4th シングルとしてカットされ、全英で最高13位を記録した。

SOLD

BOY GEORGE/SOLD

1. SOLD
2. I ASKED FOR LOVE
3. KEEP ME IN MIND
4. EVERYTHING I OWN
5. FREEDOM
6. JUST AIN'T ENOUGH
7. WHERE ARE YOU NOW?
8. LITTLE GHOST
9. NEXT TIME
10. WE'VE GOT THE RIGHT
11. TO BE REBORN



 翌'88年には、ゲイを擁護するすべての行為は違法であるとする地方自治体法案28項に対するプロテスト・ソング「NO CLAUSE 28」をリリースした(全英最高57位)。プリンス&ザ・レヴォリューションのドラマーであったボビー・Zがプロデュースを担当したファンク・ナンバーで、ボーイ・ジョージは当時のサッチャー政権に対し、ミュージシャンにふさわしく音楽という手段で反旗を翻した。

TENSE NERVOUS HEADACHE

BOY GEORGE/TENSE NERVOUS HEADACHE

1. DON'T CRY
2. YOU ARE MY HEROIN
3. I GO WHERE I GO
4. GIRL WITH COMBINATION SKIN
5. WHISPER
6. SOMETHING STRANGE CALLED LOVE
7. I LOVE YOU
8. KIPSY
9. MAMA NEVER KNEW
10. WHAT BECOMES OF THE BROKEN HEARTED
11. AMERICAN BOYZ
12. HAPPY FAMILY
13. NO CLAUSE 28

※曲目は日本盤のものです。



 '91年には、ハウス・ミュージックのソロ・プロジェクト、ジーザス・ラヴズ・ユー名義で、アルバム『THE MARTYR MANTRAS』を発表(全英最高60位)。このアルバムからのファースト・シングル「AFTER THE LOVE」(全英最高68位)で、ジョージは再びジョンと曲を共作しているが、しかしジョンとの関係が完全に修復されたわけではなく、2人は険悪なままでこの曲を作り上げた。

愛が去ってしまった後
僕らはどうやっていけばいいんだろう?
以前は正しかったものが間違いになる
まるで嵐の中を歩いていくみたいだ

THE MARTYR MANTRAS

JESUS LOVES YOU/THE MARTYR MANTRAS

1. GENERATIONS OF LOVE (oakenfold mix)
2. ONE ON ONE(brydon l.p.mix)
3. LOVES GONNA LET U DOWN (popcorn mix)
4. AFTER THE LOVE (ten glorious years mix)
5. I SPECIALISE IN LONELINESS
6. NO CLAUSE 28 (pascal gabriel mix)
7. LOVE HURTS (l.p. mix)
8. SIEMPRE TE AMARE
9. TOO MUCH LOVE
10. BOW DOWN MISTER
11. GENERATIONS OF LOVE (70's mix)

※ジャケットは日本盤のものです



 ヘロイン所持で逮捕されて以降、ボーイ・ジョージはアメリカのミュージック・シーンからは完全に黙殺されていたが、そんなボーイ・ジョージが久々にアメリカのヒット・チャートに返り咲いた曲が、'93年の2月にリリースされたシングル「THE CRYING GAME」である。この曲は本国イギリスよりも、むしろアメリカでヒットした(全英最高22位/全米最高15位)

 この曲は、デイヴ・ペリーの'64年の全英ヒット・ナンバーのカヴァーであり、また、同曲をモチーフにしたニール・ジョーダン監督のサスペンス映画の主題歌でもある。映画『クライング・ゲーム』は、ヒロインのディルが実はトランス・ジェンダーの男性であったということが物語の鍵となっている作品で、ディルを演じたジェイ・デイヴィッドソンの男性離れした美貌と演技が大きな話題を集め、インディーズ映画でありながら異例の大ヒットとなり、'93年度のアカデミー賞脚本賞を受賞した。そして、その主題歌である「THE CRYING GAME」をボーイ・ジョージが歌い、そのプロデュースをやはりゲイであることを公にしているペット・ショップ・ボーイズの2人が担当していたことも、この映画が話題を集めた理由の1つであった。ペット・ショップ・ボーイズの'91年のシングル「JEALOUSY」の流れを汲んだテクノ・バラードであり、グラミー賞にもノミネートされた。

AT WORST...THE BEST OF

BOY GEORGE AND CULTURE CLUB/AT WORST...THE BEST OF

1. DO YOU REALLY WANT TO HURT ME
2. TIME (Clock of the heart)
3. CHURCH OF THE POISON MIND
4. KARMA CHAMELEON
5. VICTIMS
6. I'LL TUMBLE 4 YA
7. IT'S A MIRACLE
8. MISS ME BLIND
9. MOVE AWAY
10. LOVE IS LOVE
11. LOVE HURTS
12. EVERYTHING I OWN
13. DON'T CRY
14. AFTER THE LOVE
15. MORE THAN LIKELY (PM DAWN featuring BOY GEORGE)
16. THE CRYING GAME
17. GENERATIONS OF LOVE (la la gone gaga mix)
18. BOW DOWN MISTER (a small portion 2b polite mix)
19. SWEET TOXIC LOVE (deliverance mix)



 '95年、ボーイ・ジョージは自伝『TAKE IT LIKE A MAN』を出版(日本では未訳)。それと併せるようにして、アルバム『CHEAPNESS AND BEAUTY』をリリースした(全英最高44位)。このアルバムは、少年時代のジョージが傾倒していたデヴィッド・ボウイやマーク・ボラン等に代表されるグラム・ロックを大胆に取り入れた作品である(アルバムからの1st シングル「FUNTIME」は、デヴィッド・ボウイがイギー・ポップに提供した曲のカヴァー)。つまり、自身の音楽体験の原点へと回帰したアルバムで、そこで歌われている内容も、彼のこれまでの生い立ちと現在を振り返った、極めてパーソナルなものになっている。

CHEAPNESS & BEAUTY

BOY GEORGE/CHEAPNESS & BEAUTY

1. FUNTIME
2. SATANS BUTTERFLY BALL
3. SAD
4. GOD DON'T HOLD A GRUDGE
5. GENOCIDE PEROXIDE
6. IF I COULD FLY
7. SAME THING IN REVERSE
8. CHEAPNESS & BEAUTY
9. EVIL IS SO CIVILISED
10. BLINDMAN
11. YOUR LOVE IS WHAT I AM
12. UNFINISHED BUSINESS
13. IL ADORE
14. SAME THING IN REVERSE (acoustic version)
15. CHEAPNESS & BEAUTY (acoustic version)
16. FUNTIME (ramp alien spawn club mix)

※曲目は日本盤のものです。

『CHEAPNESS AND BEAUTY』の収録曲のうち、おそらくはゲイ・パレードへの参加体験が綴られているであろう曲が、溌剌としたフォーク・ロック調のナンバー、「SAME THING IN REVERSE」である(全英最高56位)

君のすることを
君はどう感じてる?
君だって彼と2人きりのときには
キスくらいするだろう?
手を握ったりするだろう?
男である女、っていうのは何者なんだろう?
それはねじれたものなのかな?
病んでいるものなのかな?
母なる自然の、ちょっとした悪戯なんだよ
僕が恥じる必要なんかないんだ
人間として僕は生まれたんだから

君の兄貴は理解してくれない
君が男とも愛し合っているってことをね
君の哀れな親父は呪われたって思ってる
裏を返せば同じことだっていうのに

裏を返せば同じことなんだ
良いも悪いもないのさ
裏を返せば同じことなんだ
同じことさ
同じことなんだ

君がどこに向かおうとしているのかを
君は口に出して言える?
世間に通したいと望んでいるかい?
だったら怖れを檻に閉じ込めろ
カミカゼ・クイアーになるんだ

唇を噛み締めて
じっと沈黙して
僕は一人きりじゃないってことを願っている
僕が怖れる必要なんかないんだ
人間として僕は生まれたんだから

僕は彼を愛しているのだろうか?
そうさ、僕は彼を愛している
だからあれこれ問い質さないでくれ
この愛は汚らわしいものなんかじゃない
ただ矛盾を孕んでいるだけなんだ

車に乗っている黒人も
悪意に満ちた白人も
片目の見えない導師でさえも
なんでそんな驚いた目で僕を見てるんだろう?
僕はパレードの一群に加わりたいと思ったことはなかった
こんな光景を目にするなんて僕の人生設計にはなかった
でも、僕はプライドを胸に通りを歩いている
幸せだよ、君が僕の傍にいてくれるから

 ――スゴいです、この歌詞。だって「カミカゼ・クイアー」ですよ!?

 神風オカマっすよ!?

 かつては「恋人がそこにいても、それを口にしたくはない」と歌っていたボーイ・ジョージ。世界のポップ・シーンの頂点を極めた後に、心の支えであったジョンの愛を失い、生きることに絶望し、命を落とす寸前までドラッグに溺れ、人生の絶頂からどん底へと一気に転落してしまったボーイ・ジョージ。辛酸を嘗め尽くした末にゲイ・プライドを獲得した彼だからこそ歌い得る、素晴らしいプライド・ソングだと思う。



 そして、1998年、カルチャー・クラブは、ついに再結成した。VH−1の番組『STORYTELLERS』で新曲3曲を含むスタジオ・ライヴを行ない、その模様をライヴ・アルバム『VH-1 STORYTELLERS』としてリリースした(全英最高15位)。このアルバムのセルフ・ライナー・ノーツで、ジョージはカルチャー・クラブの曲の歌詞の大半はジョンのことについて歌われているのだということを改めて書き記している。

 また、このころジョンは既に結婚しており、子供も2人設けていたが、『STORYTELLERS』のインタヴューでは、これまで一貫してジョージとのあいだに恋愛関係があったことを否定し続けてきたジョンが、ついにジョージとは恋人同士であったことを認めた。

「ジョージ、今からカメラに向かって言うよ。僕はジョージを愛していた。彼と恋に落ちたんだ。他の男とはそんなことはなかった。性的関心がどうのとか、ゲイであるかとかないかとか、そういうことじゃないんだ。僕はジョージと恋に落ちたんだ。彼と出会い、恋に落ちて、彼も僕と恋に落ちたんだ。」

 自分が愛を捧げてきた相手が、今ようやく、自分とのあいだにあった愛を、事実として認めてくれた。ジョージにとって、何よりも喜ばしい瞬間だったろう。

VH-1 STORYTELLERS

CULTURE CLUB/VH-1 STORYTELLERS

1. I JUST WANNA BE LOVED (single version)
2. CHURCH OF THE POISON MIND
3. MISS ME BLIND
4. MOVE AWAY
5. I'LL TUMBLE 4 YA
6. IT'S A MIRACLE
7. THAT'S THE WAY (I'm only trying to help you)
8. STRANGE VOODOO
9. BLACK MONEY
10. I JUST WANNA BE LOVED
11. WHAT DO YOU WANT
12. THE CRYING GAME
13. VICTIMS
14. DO YOU REALLY WANT TO HURT ME
15. TIME (Clock of the heart)
16. KARMA CHAMELEON

※ジャケット、曲目は日本盤のものです。

 そして、シングル・リリースされた新曲「I JUST WANNA BE LOVED」は、カルチャー・クラブの王道ともいうべきレゲエ・ナンバーで、ボーイ・ジョージにとっては「EVERYTHING I OWN」以来11年ぶりの、そしてカルチャー・クラブとしては'84年の「THE WAR SONG」以来14年ぶりの、全英トップ5シングルとなった(全英最高4位)

今夜のことを心に刻み込んで、忘れないでくれ
愛は僕らに思い出を残してくれた
これ以上はない最高のお別れさ
僕は新しい恋人を見つけるよ
僕を落ち込ませないような人をね
君は僕をみんなと同じにしようと努力してくれたよね
なのに君は自分のことには目をつぶったままだった

幸いなことに、僕はまた1つ賢明になったよ
幸いなことに、僕は自分の内面を見つめるようになった

僕はただ愛されたいだけなんだ
君と争うつもりはないんだ
でも、それを口に出すのは自尊心が許さないんだ
ああ、僕はただ愛されたいだけなんだよ
君に懇願したくはないんだけど
それを声高に叫ぶのは自尊心が許さないんだ



 こうしてカルチャー・クラブは本格的に活動を再開し、翌'99年には、13年ぶりのオリジナル・アルバムとなる『DON'T MIND IF I DO』が発表された(全英最高64位)

DON'T MIND IF I DO

CULTURE CLUB/DON'T MIND IF I DO

1. I JUST WANNA BE LOVED
2. COLD SHOULDER
3. MAYBE I'M A FOOL
4. SIGN LANGUAGE
5. MIRROR
6. BLACK COMEDY
7. YOUR KISSES ARE CHARITY
8. WEEP FOR THE CHILD
9. SEE THRU
10. STRANGE VOODOO
11. TRUTH BEHIND HER SMILE
12. FAT CAT
13. CONFIDENCE TRICK
14. STARMAN
15. LESS THAN PERFECT

『VH-1 STORYTELLERS』同様、このアルバムにはボーイ・ジョージによるセルフ・ライナー・ノーツが添えられている。その中でジョージは、こう語っている。

「カルチャー・クラブは、現実に進行しているソープ・オペラ(日本で言うなら昼メロみたいなもの)で、時には自分で自分を痛めつけて、正気を保たなければいけないんだ。」

「僕にとっては、どんなセクシャリティも、はっきり決め付けられるものではないし、愛のあり方は以前よりもますます込み入ったものになっている。僕の書く歌詞は、僕が目にしてきたそうした混乱を理解し、反映するための試みなんだ。」

 ――ボーイ・ジョージとカルチャー・クラブの音楽は、ボーイ・ジョージが一人の男と愛憎劇を演じる中で己のセクシャリティに翻弄され、悩み傷つき、自分の命すら放棄しようとする手前まで追い詰められた末に、そこからどうにか立ち直ってゲイ・プライドに目覚めていくまでのすべての過程が、克明に刻み込まれているのである。



Text by Takaki Fujishima



※このレヴューは、ゲイ小説サイト e-G Library に掲載されたテクストを改訂して転載したものです。
※このレヴュー中に掲載している歌詞の対訳は、CDに添付されている歌詞カードの対訳を転載したものではなく、筆者が新たに解釈を加え、訳し直したものです。

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