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What's Queer Music?

Text by 藤嶋隆樹

ゲイの当事者のかたのあいだに限らず、世間一般でも、「ゲイ・カルチャー」という言葉は、しばしば用いられます。

しかし、この「ゲイ・カルチャー」という言葉は、実は定義が非常に曖昧だったりします。

たとえば、ゲイ・テーマの小説やマンガを指して、「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」などと呼称することがありますが、では、それらの「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」の正確な定義を、みなさんはどのようなものだと考えておられますか?

ゲイの出てくる物語? それとも、ゲイの作者による物語?

ゲイの作家によるゲイ・テーマの作品。これはまぎれもなく「ゲイ小説」であったり「ゲイ・コミック」であったりしますよね? だとしたら、ゲイの作家による異性愛テーマの物語は、はたして「ゲイ小説」や「ゲイ・コミック」に分類できるのでしょうか?

反対に、異性愛の作家が書いたゲイ・テーマの作品はどうなるでしょうか?

さらに突っ込んで言うと、異性愛の作家による非ゲイ・テーマの作品であっても、その中に登場するキャラクターの造形とか関係性に、同性愛的要素が読み取れるのであれば、それは「ゲイ小説」あるいは「ゲイ・コミック」として認知されている場合だってあります。吉田秋生先生の名作マンガ『BANANA FISH』などはその代表例ですよね。

……このように考えていくと、結局のところ「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」という分類の仕方は、「その作品がどのように読めるか」という、いわば「読者の側の読み方」に基づくものでしかないんですよね。

しかも、その物語をどのように解釈するかは、100%読者の自由です。読者が100人いれば、100通りの解釈がある。

つまりは、「読者の主観」に基づいた分類なんです。

そのような分類の仕方である以上、実は「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」を定義づける明確な一線は、存在していないんですよね。

定義づけること自体が既に困難なんです。

そして、「ゲイ・ミュージック」という言葉も、やっぱりこれと同じだったりします。

たとえば、ゲイであることをカミングアウトしているアーティストの歌う、異性愛テーマの曲は、はたして「ゲイ・ミュージック」に分類できるのか?

反対に、歌っているのが異性愛のアーティストであっても、それがゲイ・テーマの楽曲であれば、それは「ゲイ・ミュージック」に分類すべきなのかどうか?

俗に言うオネハ(オネエ・ハウス)を「ゲイ・ミュージック」と呼んでいるかたも、大勢いらっしゃいます。この場合は、歌っているアーティストの性的指向とか楽曲のテーマに基準を置いているのではなく、「ゲイのリスナーから支持されている」という、リスナーの側の事情に基準を置いています。つまり、この場合の「ゲイ・ミュージック」というのは、アーティストがゲイだから「ゲイ・ミュージック」なのではなくて、リスナーがゲイだからという意味での「ゲイ・ミュージック」なんですね。

かような具合に、「ゲイ・ミュージック」の定義も、「ゲイ小説」や「ゲイ・コミック」と同じく、やっぱり非常に曖昧です。

が、しかし。

この『Queer Music Experience.』では、そのような曖昧な「ゲイ・ミュージック」に、あえて明確な1つの定義を与えています。

それはいったいどのような定義なのかというと、

「ゲイであることを公にしているアーティストによって、歌われたり演奏されたりしている音楽」

そして、その「ゲイ・ミュージック」を一領域として含んでいる「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」とは、

「レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、あるいはトランスジェンダーであることを公にしているアーティストによって、歌われたり演奏されたりしている音楽」

――これが、私の考えている、「ゲイ・ミュージック」もその一領域として含めた「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」の定義です。

もちろん、ゲイ・カルチャー全体の歴史を俯瞰する上では(この場合の「ゲイ・カルチャー」は「ゲイにまつわる文化活動全般」という緩い意味で捉えておいてください)、「異性愛のアーティストが歌っているゲイ的な内容の曲」とか「ゲイから強く支持されている異性愛のアーティストの曲」、さらにはオネハの有名曲などといった意味合いでの「ゲイ・ミュージック」も、非常に重要ではあります。

しかしながら、そういった楽曲やアーティストたちの話題はあえて周縁的なものと考えて、この『Queer Music Experience.』では、レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーであることを公にしているアーティストの楽曲という意味での「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」、およびその一領域としての「ゲイ・ミュージック」を紹介していきます。

「ゲイ・ミュージック」という言葉を、あたかもゲイを特殊なもの扱いした括りであるかのように理解して、批判的な目で見ているかたたちは、ゲイの当事者の中にも、まだまだ大勢いらっしゃいます。たとえオープンリー・ゲイのミュージシャンのかたであっても、ご自分の音楽を「ゲイ・ミュージック」とか「LGBTミュージック」に区分されるのを是としない人は、日本だけでなく海外でも少なくありません。

ゲイであることは、別に特殊なことではない。だから、性的指向に着目するのではなく、音楽そのものを聴いてほしい。そういうことなんだと思います。

あるいは、「ゲイという言葉は音楽用語ではないんだから、ゲイ・ミュージックなどというジャンルは成立し得ない」とか、「もしもゲイ・ミュージックというジャンルが成り立つのなら、ストレート・ミュージックというジャンルもなければおかしいのではないか」という異論・反論も、かつてはよく耳にしました。

しかし。

非・音楽用語によるジャンル区分は、クラシックや伝統音楽の世界ならともかく、ロックやポップスの世界でも成立し得ないものなのでしょうか? 本当に?

だとしたら、その理由と根拠は、いったいどのようなものなのでしょうか?

同性愛と異性愛は、いつ如何なる場合でも、常に相反するものとして考えなければいけないのでしょうか? 本当に?

だとしたら、その理由と根拠は、いったいどのようなものなのでしょうか?


かつて、J-POP の世界では、一時期、「ガールポップ」という言葉が流行しました。そして、この『Queer Music Experience.』における「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」の定義は、このガールポップという分類と、同じようなものです。

ガールポップというのは、1990年代にソニー・マガジンズから発刊されていた雑誌の名称(正確な表記は『GiRLPOP』)です。当時台頭していた若手女性アーティストたちの音楽を総称する言葉としても、のちには用いられるようになりました。

この分類の仕方には、具体的な音楽性というものは何ら反映されていません。当時そこに分類されていた女性アーティストには、初期は谷村有美さんや森川美穂さんなどの女性シンガー・ソングライターが、そして後期には安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんといった avex trax の女性ヴォーカリストなどが含まれていました。音楽性は実に種々雑多、かなりの多岐に渡っていましたが、それらのアーティストに共通して言えたのは、異性愛男性にとってのアイドルであるというよりは、むしろ同年代の女性たちからロール・モデルとして支持される傾向が強かった、ということです。

ガールポップという分類は、音楽性に基づいたものではなく、性別に基づいたものです。それゆえに、ガールポップという分類を性差別的なものだと考えることも、実は可能です。女性アーティストによって歌われたり演奏されたりする音楽をひとくくりにするという行為は、見方によっては、公然たる女性蔑視です。

にもかかわらず、そうした批判をおこなった人はほとんどありませんでした。

ガールポップに分類された女性アーティスト当人たちの側からの反発も、少なかった。

音楽性を無視した区分であっても、反発は少数だった。

対立項としての「ボーイポップ」という分類は定着しなかったのに、反発は少数だった。

この事実は、女性アーティストたちの、差別に対する無知を示すものではありません。

それはなぜかというと、ガールポップという分類が、音楽産業という男性優位社会における、女性アーティストたちの台頭を象徴したものだったからです。

自分の考えを自分自身の言葉で述べる、能動的な女性アーティストたちの活躍と、それを支持する同世代の女性たちの存在が、J-POP の世界に大きな影響を及ぼすようになった。

そして、その動きの中で活躍する女性アーティストたちの多くが、同年代の女性ファン層から、ロール・モデルとして強く支持されるようになっていった。

その現象の中から、ガールポップという分類が生まれたのです。

ガールポップという分類は、女性蔑視から発生したものではなく、当の女性アーティストたちと同世代の女性たちが、自分たちのロール・モデルとして、その女性アーティストたちを強く支持したことから生まれたものだったのです。

もちろん、その分類は、確かに外側から一方的に押し付けられた、音楽性を無視したものかもしれません。しかし、それは女性性を檻の中に囲い込むための分類ではない。10代〜20代の女性たちが、J-POP の世界で活躍する女性アーティストたちの中に、自分たちのロール・モデルを見出した。その現象こそが、ガールポップだった。

そこに分類された女性アーティストのほとんどは、「男性性の対立項としての女性性」からは離れたところで女性としての自己実現を果たしていたからこそ、逆にガールポップという分類にも超然としていられた。「ボーイ」に対しての「ガール」ではなく、自己実現の主体としての「ガール」であったからこそ、声高に反発することもなかった。

つまり、ガールポップという分類は、女性アーティストを差別的に扱ったものではなく、男性優位社会の中で能動的に活躍する女性アーティストたちを讃える分類でもあったんです。

そして。

「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」という分類も、それと同じ性質のものになり得る可能性を、実は秘めていると私は思うんです。

だからこそ、私は「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」という分類の定義を、先にも述べたように、「レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、あるいはトランスジェンダーであることを公にしているアーティストによって、歌われたり演奏されたりしている音楽」として考えているんですね。

仮に、この世からすべてのゲイ差別が綺麗さっぱりとなくなり、誰一人としてゲイを特殊視する者がいなくなったとしても、決してゲイ産業はなくならないと思います。なぜなら、この世に差別があろうとなかろうと、やっぱりゲイの人たちは同じゲイの人たちとの出会いを求めるだろうから。この世からすべてのゲイ差別がなくなったとしても、やっぱりゲイバーは必要とされるし、ゲイ雑誌だって刊行され続ける。

それと同じことで、この世からゲイ差別が一切なくなったとしても、やっぱり「ゲイ・ミュージック」というジャンルは、リスナーやオーディエンスからのニーズとして、自然に発生すると思うし、同じ理屈で「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」へのニーズも、発生すると思います。

ガールポップの場合と同じように、ゲイのロール・モデルを、自分たちと同じゲイのミュージシャンの中に求めようとする考えは、ゲイ差別があろうとなかろうと、絶対に起こってくると思います。むしろ、ゲイ差別がこの世からなくなったとしたら尚のこと、「ゲイ・ミュージック」というジャンルを求めるリスナーやオーディエンスの声は、より一層大きくなるはずです。なぜなら、この世にゲイ差別などというものが存在していなければ、リスナーやオーディエンスたちは自分たちの性的指向を周囲に隠す必要などなくなるのだから、今よりももっと堂々と声高に、ゲイのロール・モデルをロック/ポップスの分野に求めることができるようになるはずだからです。

ゲイのロール・モデルをミュージシャンの中に求めている人の数は、決して一人や二人ではないと思います。事実、ゲイであることに立脚して音楽活動を行なっていた日本のゲイ・インディー・ミュージシャンたちの活躍を見て、ゲイ・コミュニティに足を運ぶようになったという人たちは、大勢いるのです。私自身、似たようなものです。

そうした人たちにとって、「ゲイ・ミュージック」というジャンルは、ゲイを特殊扱いしたものでは、断じて、ない。

それどころか、ゲイという性的指向が特殊ではないと教えてくれたものこそが「ゲイ・ミュージック」だったのです。

私は、「ゲイ・ミュージック」というジャンルはあると思っています。それがかつてのガールポップと同じような性質のものとして広まってくれたなら、そのことをゲイのミュージシャンたちは歓迎していいと思うのです。

なぜなら、その分類は、自らの性的指向に誇りをもって音楽活動に取り組むミュージシャンたちを讃えるものだから。

そして、ガールポップというジャンルが、様々なタイプの音楽を包含することで、女性の多分野への社会進出を象徴していたのと同じく、「ゲイ・ミュージック」もまた、様々なタイプの音楽を包含することによって、性の多様な在り方を、ゲイ・コミュニティの内と外に示していくことができるはずなのです。

「ゲイ・ミュージック」というジャンルは、確かに音楽性に基づく分類ではありません。性的指向に基づく分類です。だからこそ、その音楽性は多様であって構わないのです。むしろ、多様であってこそ初めて「ゲイ・ミュージック」足り得るのです。


そして、この『Queer Music Experience.』では、「ゲイ・ミュージック」という分類は、「クイアー・ミュージック(LGBTミュージック)」という、より大きな分類の中の、細分化された一領域として位置づけています。

本来、「ゲイ」という言葉は同性愛者全般を指していますが、特に日本では、「ゲイ」という言葉は男性同性愛者のみを指して用いられるケースがほとんどです。そのため、「ゲイ・ミュージック」という言葉にはレズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダーが含まれていない、と解釈する人もいるかもしれません。

欧米では、すべてのセクシャル・マイノリティーのミュージシャンを包含するために、「クイアー・ミュージック」あるいは「LGBTミュージック」という呼称が、多く使われています。このサイトでも、それに倣っていこうと思います。


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