クィア・ミュージックの情報アーカイブ


Queer Music Review -Live Review-

鹿嶋敏行ライブ「自分らしく生きる」

2010年3月27日 at 豊島区民センター5階音楽室

出演:鹿嶋敏行

初出:Gay Life Japan『藤嶋隆樹のゲイミュージックワールド』2010年4月7日

ジャズやシャンソン、さらには海外の女性ボーカルや日本の唱歌など、ジャンルの枠には囚われずに、良質な歌の世界を幅広く探求していらっしゃるトランスジェンダーのシンガー、鹿嶋敏行さんが、去る3月27日、豊島区民センター5階音楽室を会場に、初の単独ライブをおこなわれました。

『自分らしく生きる』と題された今回のライブは、アクティビストの伊藤悟さんが代表を務めておられる、すこたんソーシャルサービスさんの主催によるものです。昨年の8月28日、下北沢の北沢タウンホールにて開催された第1回 LGBT 音楽祭での鹿嶋さんのパフォーマンスをご覧になられた伊藤さんとすこたんソーシャルサービスのスタッフさんは、その歌声に大いに感動され、今回のライブを企画なさったのだそうです。会場には、その LGBT 音楽祭のオーガナイザーを務められたピアフレンズ主宰の石川大我さんから贈られた花も飾られていました。(第1回 LGBT 音楽祭の模様は、このゲイミュージックワールドの第8回にレポート記事を掲載しているので、そちらもご覧になってください。)

鹿嶋敏行さんと竹内大輔さん

いよいよ始まった、鹿嶋さん初の単独ライブ。竹内大輔さんによるピアノ演奏と、鹿嶋さんの優しく温かく、そのうえ聴き手の心を打ち震わせる力強さをも兼ね備えた、真摯な歌声が響き渡る時間と空間は、「ライブ」という言葉で表現するよりも、「サロン・リサイタル」とでも呼んだほうがふさわしい、そんな雰囲気に、終始包まれていました。

オープニング曲は、LGBT 音楽祭でも歌われたミュージカル『レント』のテーマ曲「Seasons of love」。続いて鹿嶋さんのオリジナル曲「春を愛する人」、そしてこれもまた LGBT 音楽祭で歌われた美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」が続きます。鹿嶋さんの MC によると、LGBT 音楽祭でのパフォーマンスでいちばん反響が大きかったのが、この「ヨイトマケの唄」だったんだそうです。

そして4曲めに歌われたのが、'80年代を代表する歌姫、シンディ・ローパーの「True Colors」。伊藤さんも大好きだとおっしゃるこの曲は、ゲイ・アンセムとしても非常に有名な、不朽の名曲です。この「True Colors」も、それから「ヨイトマケの唄」もそうなのですが、鹿嶋さんの歌声には、詞の中に込められたメッセージを鮮明に伝える力強い訴求力があるのと同時に、聴き手の傷んだ心をふわりと包み込む、決して上から目線には陥らない、いたわるような肌触りがあります。私は最前列から鹿嶋さんのパフォーマンスを拝見していたのですが、すぐ側から女性のお客様のすすり泣いていらっしゃる声が聞こえてきたのを、私は忘れることができません。

鹿嶋敏行さんと伊藤悟さん

前半4曲のあとは、鹿嶋さんと伊藤悟さんのお二人によるショートトークライブです。全文を掲載したいくらい含蓄に富んだ内容だったのですが、さすがにそこまではできないので、ここでは鹿嶋さんの LGBT アーティストとしての魅力をよく伝えてくれているくだりをご紹介します。

伊藤さん「今日のタイトルも『自分らしく生きる』とあるんですけれども、私の場合は同性が好きということを、どうやって異性愛の人たちに伝えるのか、すごい悩ましいところがあって、すこたんソーシャルサービスも活動の始めのころは、いろいろなところに出向いて講演活動をしたり、いろんな表現をしていたんですけれども、それが必ずしもうまくいかなかった場合もあり、どうやって伝えていこうかなというときに、もし自分が漫画が描けたり、歌が歌えたりしたら、それで表現できるのになあ、自分ができたらいいなあ、って思ってきたんです。鹿嶋さんの場合には、歌という武器があるわけですけれども」

鹿嶋さん「最終兵器です(笑)。本当に、音楽は私にとって切り札なんですね。やっぱり音楽と付き合うことで向き合えたものが確かにあって。自己啓発みたいにいったらちょっと誤解があるとは思うんですが、ある意味、音楽をやるってことは自分と向き合うことでもあるので、もちろんセクシュアリティーの問題も、やっぱり切っても切り離せない、自然に出てくるものだと思うんです。だから、そういう意味でも音楽は本当に大きな力になっているし。みなさん、それぞれ自分の中にそういう鍵になるものがあると思うんですね。それが私の場合は歌であり音楽だった、というだけだと思うんです」

伊藤さん「鹿嶋さんの場合には、男性として生まれて、女性として生きようとされてるわけですよね」

鹿嶋さん「そんなに期待されるほど女々しくないですけどね(笑)」

伊藤さん「直接そういうことを表現しなくても、自分のあり方について、歌の中に込められてるっていう感じなんでしょうか」

鹿嶋さん「そうですね。普段は胸の中にしまっているとか、自分でも取り出せないような瑣末なことだったりもするんだけど、そういうものが音楽には自然と表れるし、そういうものだと思うし」

さて、今回のセットリストは、鹿嶋さんご自身の言葉によると、前半は LGBT を比較的強く意識した選曲、後半は LGBT そのものよりも「カジマ・ミュージックの現在」、なんだそうです。ショートトークライブのあとに始まったその後半部は、日本の唱歌「朧月夜」と、鹿嶋さんの活動をサポートされているギタリストの貴水玲央さんが中原中也の詩に曲をつけた、「月夜の浜辺」のメドレーで幕を開けました。この「月夜の浜辺」、私はかなりのお気に入りです。

そして、今回私の心を最も沸き立たせてくれたのが、続いて歌われた「The Rainbow Connection」。もともとは映画『The Muppet Movie』の中でカエルのカーミットが歌っていたナンバーです。日本ではカーペンターズによるカバー・バージョンがドラマの主題歌に使われたことで有名となりました。「どうして世の中にはこんなにたくさん虹の歌があるんだろう?」というカーミットの素朴な疑問から始まるこの曲に、鹿嶋さんは今回、ご自身で訳詞をつけて歌われたんですが、この訳詞がメチャメチャ素晴らしかったんですよ! 原詞の内容に忠実な日本語が、違和感なくメロディの上に乗せられているのみならず、「虹」という記号が LGBT の文脈における多様性のメタファーに置き換えられたことによって、鹿嶋さんの「The Rainbow Connection」は、あらゆる人々の融和を願う LGBT アンセムへと生まれ変わっていました。このカジマ版「The Rainbow Connection」は、ぜひこれからも定番曲として歌い続けていってほしいです!

鹿嶋敏行さん

続いては、エディット・ピアフの「愛の讃歌」。岩谷時子さんによる日本語詞も有名ですが、ここでは鹿嶋さんのご友人の青空令時さんによる訳詞で歌われました。やはり原詞の内容により近いものです。今回の「愛の讃歌」は、鹿嶋さんの言葉によると、「いちばん『カジマ・ミュージックの現在』の傾向が表れていた曲」なんだそうです。曰く、「私はピアフの表現者としての徹底性にすごく刺激を受けるんです。ひとつの歌にいのちを吹き込む、彼女の徹底ぶり。まさに『歌を生きている』。私はピアフのものまねをしたいわけではないんです。私がやりたいのは、そういうことではない。ただ、『ピアフ』を通して開けていく、私にとって新しい表現の世界があるはず。それが今、私が『ピアフ』を歌う理由なんです」

次は鹿嶋さんのオリジナル曲「過ぎゆく季節の中で」。まもなく新生活が始まる今の時節にピッタリの曲です。そして、いよいよラスト。今回のリサイタルの開催に至るまでの「人の縁」と、それに対する感謝の気持ちを込めて、鹿嶋さんが歌われた最後の1曲は、中島みゆきさんと宮沢和史さんの曲を一つに繋げた、「糸/遠い町で」。「カジマ・ミュージックの現在」というテーマで選曲されていた後半部ですが、実は「遠い町で」の歌詞の中にも、「虹」という記号が登場してきます。確かに前半と後半とでは選曲のテーマが異なっていたのかもしれませんが、全体を通してみると、「True Colors」や「The Rainbow Connection」、そしてこの「遠い町で」のように、「虹」の出てくる曲が数曲おきに配置されています。そう考えると今回のリサイタルは、「虹」というキーワードが、全体を貫く大きな隠しテーマになっていた、とも言えると思います。

鹿嶋敏行さん

リサイタルはここで終演のはずだったのですが、感動覚めやらぬ観客のみなさんからの熱いアンコールに応えて、鹿嶋さんはかねてから敬愛されているローラ・ニーロのゴスペル・ソング「Save the Country」を歌われました。このアンコールは本当に予定外のハプニングだったそうで、ピアノの竹内大輔さんは真剣に大慌てだったそうです(笑)。しかし、想定外のアンコールだったからこそ、ここでは鹿嶋さんがすでに何年も歌い込んでこられた曲が選ばれているはずで、故にアンコールでの鹿嶋さんのボーカルには、それまでとは雰囲気の異なる、自由自在に空を舞うような伸びやかさ、しなやかさがありました。

こうして幕を閉じた、鹿嶋さんの単独リサイタル『自分らしく生きる』。休憩時間を挟んだ後には、鹿嶋さんを交えての交流会も催されました。すこたんソーシャルサービスさんのワークショップの一環としての企画でもあった、今回のリサイタル。鹿嶋さんの歌と音楽を通して、人と人との繋がりを広げていくという、すこたんソーシャルサービスさんならではのフレンドリーさにあふれた、とても素敵な企画でした。ぜひこれからも開催してください! 期待しています!

カジマブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/kajimarl_to_the_world

鹿嶋敏行 MySpace
http://www.myspace.com/kajimarlkingdom

すこたんソーシャルサービス
http://www.sukotan.com/

Text and Photo by Takaki Fujishima



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